朝、5時台の電車に乗ることがある。
冬至の頃は、真っ暗で漆黒の闇に包まれる時間だった。
けれど、春分が近づくこの頃は、
空が幻想的な色に染まる時間になった。
駅へ向かう道を歩いていると、
頭上の空がだいぶ明るいことに驚く。
東の空を見てみると、
地平線近くが、ベルト状にオレンジ色に染まっていた。
胸のあたりが、微かに沸き立つ。
それは、真っ暗だった空に現れた、
一筋のオレンジの光に心を掴(つか)まれた瞬間。
日の出が瞬間ごとに空を染めていく、
めくるめくような空の移り変わりを予感した、ときめき。
電車に乗り込む。
東の空が見える席に座る。
太陽が昇る位置に近いほど、色の移り変わりが大きい。
地平線近くのベルト状のオレンジ色の空。
少しずつ上空へと目をやると、
白んだ空との境目あたりが、
最初は、とてもうすい紫色に見えた。
その薄紫色が、やがて、ほんのりピンクがかった色へと変わった。
手前のビルや、民家の峰々は、
まだまだ暗くて、その黒いシルエットが空の色を引き立てている。
目覚め始めた空と、まだ目覚めていない建物たち。
光景が心に焼きつく。
ふと、西の空に目をやると、まだ夜明けが来ていない。
空と建物の間には、まるで、夜が更けていく手前のような時間が流れている。
突如、空が広くなり、視界が開けた。
走る電車から飛び出して、ずっとこの空を眺めていたくなる衝動に駆られる。
あぁ、時を刻むごとに、この空はどんな風に変化していくんだろう。
ずっと見ていたいなぁ・・・
その衝動をやり過ごして、また東の空へと目をやる。
視界をふさぐビルの合間から見えた空は、朱鷺(とき)の色をしていた。
うっすらとした、ほんのりとした、何とも言えない色。
じんわりとした感動が胸に広がる。
そして、まるで、恋い焦がれる人を目で追うように、
次はいつ見えるだろうか、と、
建物の合間から見える空を、心待ちにする自分がいる。
また空が見えた。
空に浮かんだ雲の陰影が濃くなっていた。
オレンジの色も濃くなり、
太陽の光が強くなっていることを感じさせる。
劇画のような色合いの雲。
それを最後に、低い空は、目の前の建物たちに阻まれてしまった。
はぁ・・・
なんて、胸が高鳴る贅沢な時間だったのだろう。
私の目に移る、空の種々の色々。
その一瞬一瞬が、
どんな空もが、
私を惹きつけていた。
感じることをすべて味わうこと。
それは、とても贅沢で至福の時間。
一瞬が永遠に感じられる時間。