『収容所(ラーゲリ)からきた遺書』:心に残る本

収容所から来た遺書

心に残る本は何ですか?と聞かれたら、

いくつか頭に思い浮かぶうちの一冊がこの本だ。

10年以上前に、ふと知人から紹介されて読んだ本。

『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』

何の気なしに読み始め、

ゆるゆると読んでいたはずが、

いつの間にか引き込まれるように読んで、

中盤から最後にかけては、

心を掴まれて、

最後は泣いていた。

そして、それからは、

何かオススメの本をたずねられると、

この本を勧めたことも多かった。

過酷なシベリア抑留下で、

ダモイ(帰国)を強く信じ、希望を持ち続け、

その知性と人間性とで、

まるで、消えることのない灯火のように、

周囲の人々に

いのちの火を吹き込み続けた山本幡男氏と、

彼を慕う仲間の実話。

山本氏に希望の火をもらった男達の

恩返しとも呼べる行為に胸を打たれる。

この文章を書こうと思って、

もう一度本を読み返していたら、

山本幡男氏は島根県隠岐郡の出身で、

松江中学を出ていることに気づいた。

ちょうど今度、松江を訪れるけれど、

この偶然は一体何だろうか。

山本氏が読んだ詩や句が、

本の中でいくつも紹介されているけれど、

その中でも、じんわりと胸に響く詩

「指」

わが指は

節くれだちて皺よりて

老いにけらしな

若き日は

品よく伸びて美しく

垂乳根の母はも

己が指に似たりと

愛で給ひしが

生業の筆もつ指に

筆胼胝(ふでだこ)生えし

ニコチンの沁み入る指は

黄色く染まり

この皺に鏝(こて)かけて延す術なし

この手もて

親子 姉妹(はらから) 十人の

生活(たつき)ささへし現世(うつしよ)の

苦を刻みたる皺なれば

うたても またいとほしく

時折は撫でて見つる

そして、自著『平民の書』について、

病床を見舞った仲間に向けて

山本氏が熱く語った言葉に感じるものがある。

「ぼくはね、

人間が生きるということはどういうことなのか、

シベリアにきてようやく分かってきた氣がするんだ。

ぼくは、共産主義者でも、

もとより右翼主義者でもない。

野本さん、時代はね、

ぼくたちがこうしているあいだにも、

日々、確實に移っているんだよ。

いまのぼくの考えを強いて命名すると、

第三の思想と呼ぶのがふさわしかもしれない。

右でも左でもない第三の思想、

全體主義にあらず、個人主義にあらず、

東洋でも西洋でもないんだ。

おそらくそれは、

いずれきたるべきものであり、

創造されるべきものなのだと思う。

僕はね、これを第三の思想と呼ぶ以外に

いまは名付ようがないのですよ」

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この記事を書いた人

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わたなべ えり

カウンセラー/セラピスト/講師/ファシリテーター
カウンセリング・セラピー・コーチングなどを融合させ、人がいのちの喜びを生きることをサポートしています。
10代の頃から心に興味を持ち学ぶ。「自分のやりたいことが分からない」、「感情が分からない」、「人とのコミュニケーションがうまくできない」、自身も苦しんだこれらの悩みに光をもたらしてくれたのは、心の学びを通じて、自分の心を見つめることでした。
悩み苦しみは、転じていのちの喜びへと通じているのだと思います。そのプロセスの伴走をさせていただいています。
好きなことは、旅、読書、音楽を聞くこと、散歩。また、自然をこよなく愛する。