映画は私という人間を作る要素となっている
これまで沢山の映画を観てきた。
映画マニアの人には、遠く及ばない数だとは思うけれど、
特に20代の頃は、同じ映画好きの友人と、毎週のように仕事終わりに観に行ったり、
休みの日には、二本立てで観に行ったり、
面白そうな作品を見つけては、電車に揺られて遠出して観に行ったりした。
映画館に行く以外でも、レンタルしたり、録画して観たり、一体これまでの人生で何本観てきたんだろう?と思う。
最近は、そこまで沢山の本数を観ることはないけれど、気になったものがあったら観ている。
その時々で、心に残る映画はある。
展開が秀逸だな、とか、
ストーリーがとてもいいな、とか、
この世界の割り切れなさの表現がリアルだな、とか、
光も闇も併せ持つ人の心が表現されていて真実だよな、とか。
一つ一つの映画は、異なる余韻を残し、
その余韻は心にそっと仕舞われ折り重なり、
私という人間を作る要素の一つとなっているように思う。
心の真ん中に居続ける映画『歓びを歌にのせて』
忘れられない映画は、幾つもあるけれど、
その中でも心の真ん中に居続ける映画がある。
“歓びを歌にのせて”という映画だ。
2004年のスウェーデン映画。
あらすじは、下記の通り。
「音楽で人の心を開きたい」という夢を抱く人気指揮者ダニエル・ダレウスは、公演直後に心筋梗塞を起こし舞台で倒れ、一命は取り留めたが、それを機会に第一線から退いてしまう。病を押して彼が隠遁の地に選んだのは7歳のときに後にした故郷ノールランドの小村。酷い虐めにあった苦い思い出の地だ。転居して早々、ダニエルはスポーツ店主アーンから教会の聖歌隊への助言を求められる。聖歌隊に関わる村人たちはそれぞれ不満や悩みを抱えていた。夫の暴力に苦しむ歌の上手いガブリエラ、太っていると馬鹿にされるホルムフリッド、障害のせいで歌わせてもらえないトーレ…。初めは指導をためらっていたダニエルだったが、音楽の力を信じ、「声を感じあう」という独自の指導を始める。次第に音楽の歓びに浸っていく村人たちであったが、教会のスティッグ牧師は変化を嫌って干渉し始める。村でのコンサートが成功し、アーンが申し込んだインスブルックのコンクールから招待状が届く…。
出典:歓びを歌にのせて 『ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典』より
故郷の聖歌隊で指導を始めた主人公ダニエル。
その指導方法は、いわゆる歌のレッスンとして想像されるものとは違い、
うまく歌うことや、技術的なことではなく、
お互いの声を感じ合い、響き合うことを楽しみ、心と身体を開くことを促すようなレッスンだった。
私自身、ボーカルトレーニングを5年ほど受けていたことがあるので実感するが、
歌は自身の身体が楽器となるので、心身の状態が声にダイレクトに現れる。
レッスン当時、身近な人との関係に苦しみ、心も体もボロボロだった時は、
発声するのが苦しく、1時間のレッスンの最後の方でようやく声が出るようになった、ということもあったし、
旅に出て、自由を満喫し、心と身体が解放された後にレッスンに行った時は、
いつもレッスンの最初にする、体ほぐしや発声練習をしなくても、声が伸びやかに出た。
映画の中で、ダニエルの指導が始まってから、メンバー1人1人に変化が起きていく。
歌うということは、心と身体に現れた、その人の人生の生き方そのものへとアクセスしていくことになるからなのだと思う。
メンバー1人1人が自分の気持ちに向き合っていった。
それまで向き合うことを怖れていた恐怖や不安を、真正面から見つめ、
恐怖の奥底にある本当の気持ちや歓び、愛へと気づいていったのだ。
私を生きられるのは私しかいない
そして、中でもハイライトと言える、ガブリエルが歌うシーンが魂を揺さぶる。
夫の暴力に苦しむガブリエルは、恐怖から状況を変えられず、自分を生きることができずにいた。
けれど、歌うことを通じて、仲間との交流や支え合いを通じて、勇気をもって自分の中の真実とつながっていく。
歌の歌詞が素晴らしいので、ぜひ聞いて欲しいけれど、
「私の人生は今こそ私のもの」
「私は自分の人生を生きたと感じたい」
といった言葉が散りばめられ、会場に聴きに来ている夫の前で、ガブリエルは恐怖に打ち勝って力強く歌い切る。
そして、ガブリエルが力強く歌う様子と、歌詞のメッセージから、
観ている側にも「自分の人生を生ききったと言える、そんな人生にしたい」と強く思わせてくれる。
私を生きられるのは私しかいないのだ。
映画のサントラCDを持っているが、歌を聞くたびに、心が震え、この思いを思い出させてくれる。
記事を書きながら、またガブリエラの歌を聴いているけれど、何度聞いても鳥肌が立ってしまう。
本当にパワフルな映画で、観ていると、細胞1つ1つが沸き立ち、エネルギーが増して、心と身体が喜ぶのを感じる。
見た回数は数える程度だけれど、それでも忘れることのない、心の真ん中に居続ける映画だ。(書いていたら見たくなってきました。)
あなたにとってのそんな映画はありますか?