樹木希林さん主演の映画「あん」を見た。
人にはそれぞれ苦悩がある。けれど、同時に喜びと幸せを感じて生きることができる。
私がこの映画から受け取ったメッセージだった。
見終えた後に、得も言われぬ余韻が残る映画だった。
そこには、悲しみと喜び、絶望と希望が、等しく存在していた。
主役となる女性、ハンセン病を患った徳江さんが、
人生で嘗めてきた辛酸、
この世の不条理への嘆き、
流してきただろう涙の量は計り知れない。
けれど、本人の口から出る言葉の数々や、生きる姿勢は、温かく愛と思いやりに溢れている。
どんなに辛い状況の中でも、ささやかな幸せと喜びを大切にして生きてきたことが伝わってくる。
アウシュビッツ強制収容所での体験を綴った『夜と霧』の著者ヴィクトール・フランクルは、
過酷な状況の中で、それでも人生にイエスと言い、
その状況下でただ生き抜くだけでなく、人間という存在を見つめ続けた。
徳江さんも、隔離施設で暮らしながら、人間という存在の残酷さや冷淡さ、醜さなど負の部分を感じざるを得ない中で、
自分の自由にはならないものではなく、自由になるものへと意識を向け、
幸せと喜びを見出して生きていたのだろう。
ある種の諦観を得ていたようにも思う。
そして、心の自由、感じる自由、考える自由、という自分の手の中にあるものまでもを明け渡すことなく、
大切に大切に生きたのだろう、と感じさせる。
人生には思い通りにならないことが沢山ある。
理不尽なことも山ほどある。
謂れのない圧力に遭うことも、どうにもできない状況に追い込まれることも。
けれど、どんなに小さくても屈しない部分が、ほんのひとかけら、人の中にはあるのだろう。
誰にも奪うことのできない、取り去るのことのできない、奥の奥の方に。
いのち。
希望。
存在の芯なるもの。
誰の中にもある、その存在の声に、
どれだけ耳を傾け、どれだけ育てたかが、外側に立ち現れる。
その人がまとう雰囲気となり、在り方になり、生きる姿勢になり、
やがて、周囲の人々の内側の深い部分と共鳴していくのだろう。
そして、奥の奥にあるその部分は、「感じること」を通して触れることができるのだろうと思う。
感じることを大切に大切にしていきたい、と改めて思った。